目標展開と施策選定
全社一体体制のものづくり改善マネジメント
-ものづくりグローバル標準マネジメントシステムの構築-
第2章 全社一体体制のマネジメント
2)目標展開と施策選定
(1)総合目標と個別目標の整合化
目標展開の基本パターンは図表2‐10に示すとおりである。この図表の上部にあるツリー構造のボックスに目標が設定され、徐々にドにブレークダウンされていく。そして最後の目標を個別目標という。
たとえば、コストダウン目標は、図表2‐11に示すように、最初は金額で目標が展開されるが、ブレークダウンされてからは製造指標に転換され展開されていく(生産性、稼働率、良品率、稼働時間など)。
たとえば、○ 円のコストダウンを実現するためには、現有設備で生産性を5%上げればよい…… というわけである。順次展開を具体的な施策を検討可能なレベルの目標と個別目標と言い、ここまで展開することで、改善施策も具体的に抽出しやすくなる。現場は金額目標より、製造指標の方がより具体的で施策を出しやすくなるのである。
ここでよくみられる問題点は、金額目標は経営計画部門が設定し、製造指標目標は製造本部が設定しているというぐあいに、金額目標と製造指標目標が別々な部門から設定されていることが多いということである。
こうなると、製造指標の目標達成と、金額指標の目標達成が一致しなくなってしまう。目標展開では、末端の個別目標の合計が総合目標と一致していることによって、個別目標を達成する活動が、総合目標達成に直結したものとなる。
個別目標は一般に個人の目標になっていることが多いので、無駄なく、効率的で、かつ従業員が納得して活動を推進するための重要なポイントとなる。
(2)改善可能性を勘案した目標展開
目標展開でよく見られるのは、“一律展開型”の目標展開で、総合目標が10%削減だと2,3,4次目標がすべて自動的に10%削減、どの職場も10%削減、となっているケースである。“目標展開”は必要性から設定された目標を、改善可能性を考慮して配分していくべきもので、一律に展開すべきではない。
いいかえれば、改善の必要性と可能性を整合させることが、目標展開の一つの狙いなのである。そのため、 ミドルマネジャーは自部門の改善可能性を定量的に把握していなければならない。
例えばコストダウンの場合は、
・各現場、各設備のロスを定量的に把握していること
・サプライヤーにおけるものづくり上の課題把握や、現場のロスを定量的に把握していることが重要となる。
そのためには、IEをはじめとした各種管理技術を熟知し、部下に伝承でき、部門として可能性把握に取り組める基盤が作られていることが前提となる。しかしながら、このことがおろそかにされたまま、単純に目標を割りつけて、目標展開ができていると考えるミドルマネジャーが多い。本マネジメントシステムの最初のステップは目標設定および目標展開で、ここで展開精度が悪いと目標達成を目指す活動がうまくいかないのである。
(3)目標達成のストーリーを「見える化」する
経営目標から展開された目標配分は、改善の可能性を勘案して個別目標までブレークダウンされ、その体系(図表2-10基本的な目標展開の例)を全社員に見えるよう掲示することで、従業員を一つの改革方向へ導いていく。
この体系図に、総合目標に対する各目標の寄与率(各目標の占める割合)を明確にすることで、従業員一人一人の個別目標が、総合的に何をどれだけ良くすることにつながるかが見え、自身の貢献度合いを把握できるのである。
また、改善投資する時の判断基準として利用することもできる。
個別目標ごとに改善施策を明確にし、この体系表に記述していくことで、目標達成への全体ストーリーも明確になる。このことにより、経営トップ自らも目標達成へむけてやるべきことが明確になり、全社一体となった活動の基盤ができる。
(4)制約条件をブレークスルーする施策展開
施策を抽出する際に、従来の抽出方法だけでは目標が達成できないことも多い。従来の方法は、できそうなことを洗い出したものであったり、既に過去検討してきたアイテムの再チャレンジであったりする。結果として、とるべき施
策が抽出できず、目標の数値には届かないため、目標達成は難しい、無理だという雰囲気が職場に蔓延してしまう。
そこで、改善を妨げる制約条件のブレークスルーを検討することで、このような雰囲気を払拭する必要がある。
制約条件のブレークスルーは、 5つのステップで進めるとよい。
((STEP 1)) 理念目標の設定
理念目標とは、究極の理想像である。例えば、設備稼働率100%、不良率0%、歩留り率100%などである。
((STEP 2)) 施策視点の明確化と視点ことの改善施策抽出
この理念日標を目指して、施策抽出の視点4M(人、材料、設備、方法)、5WlH(いつ、誰が、どこで、何を、何のために、どのように)などを明確にすることで、各視点を現状と変えてみることで、もれのない改善施策の抽出を狙うものである。
((STEP 3)) 改善効果予測と理念目標までのギャップ明確化
これらの施策に関して効果予測をし、理念目標に対する達成度を確認する。
当然そこにはギャップが発生するが、ここでは「そのギャップは、なぜ埋められないのか(なぜ理念目標が達成できないのか)」の理由を明確にできればよい。
((STEP 4)) ギャップを埋めることができない理由(制約条件)を論理的に明確化
理由は、「前にも改善したが上手くいかなかった」というレベルではなく、「前にやった時は、○○のメカニズムをり明確にできなかったため、改善案が具体化できなかった」などのように、より具体的に、より論理的に明確化することが重要である。この理由が具体的になるほど、ブレークスルーできる可能性は高くなる。
((STEP 5)) 制約条件をブレークスルーするための施策抽出
一般にこのような理由(制約条件)は、個人の中で暗黙知として持っており、オープン化されていない。暗黙知である制約条件をオープン化することで、その情報を技術部門などと共有化することができ、解決策を見いだせるようになる(図表2-12)。
(5)より具体化された施策実行計画書の策定
実行計画書は、施策を実行し、実績を管理していくための基準になるものである(図表2-13)。そのため、実行計画書の中身は、行動できるレベルで記述されていることが重要である。実行計画書に記述されるべき要素は以下のとおりである。
・施策名、施策内容(現状を具体的にどう変えるのかという表現)
・予測効果(面積と高さ)と算出式
・投資金額と明細
・施策実行の手順と担当者
・施策実行スケジュール
・効果出現タイミングと月ごとの効果予測
・実施上の留意点(実施Lの不具合を予測し、事前に対策を明確にしておく)