在庫の役割– バッファは在庫か/生産工程か
1) 在庫と納期の二律背反
しかし、フレキシブルな生産体制を構築することで計画変更に柔軟に対応する前提は、資材が対応できることです。
つまり、製品在庫が部品材に荷姿を替えただけなのです。それでも、加工費がかかっていない分だけ良い、という意見もありますが、製品在庫がないために納期対応と称して急きょ残業で生産し、納期を間に合わせた結果は、逆に加工費が割増賃金で高くなってしまっているという矛盾した結果を生んでいます。
在庫と納期はある意味で、二律背反の関係にあります。
多くの問題は、幾つかの要因が絡まって生まれる何らかの関係にあり、こうした関係の元をたどって改善しない限り、根本的な解決にはなりません。
2) 在庫の役割– バッファは在庫か/生産工程か
そもそも、ゼロにできる在庫とできない在庫があります。
その2 つを明確に把握して対策をとる必要があるのですが、現実には、製品ライフサイクルの短縮化、消費者の嗜好の多様化を前提に、デッドストックのリスクを避けるためには、「在庫は持たない方が良い」という意見が席巻しています。
その結果、本来在庫が果たしている意味が宙に浮いてしまって、「在庫は悪」として、上司は盲目的に「在庫削減」目標を押し付けがちです。
置かれた環境によって、在庫の役割は異なります。
現実に、在庫削減が進んでいると言われる業界のサプライチェーンの中でも、どのくらい在庫があるかを見れば、源流に在庫が移っているだけで、在庫なしでは納期厳守が回らないのが現実です。
サプライチェーンに含まれる会社の中では、それぞれの部門によって、流れる時間の速さが異なります。
その時間軸の差異を埋めるのが在庫で、ベルトコンベアのように全工程が同期化されて流れ生産ができていない限り、結節点で前後工程の流れる時間を調整するために在庫は不可欠なのです。
問題は在庫が不要なのではなく、ムダな在庫が不要だということです。
それをしっかり把握することが、在庫を縮小して、納期遅れをなくす、方策ではないかと思います。
在庫をバッファにせずに生産工程をバッファにしようというのが、フレキシブル生産の考え方です。
現場を訪ねてお話を聞くと、キャッチフレーズのように、「在庫ゼロ」を目標にする上司が多く見られます。
いわゆる「安全在庫」を前提としたうえで、そうした目標がある場合はいいのですが、行き過ぎた高い目標はマイナスになることが多いので、注意が必要ですね。