人はホモ・ファーベル=ものつくる人
第1部 変わるものづくりと生産管理
1.生産管理の歴史は人類の歴史
(1)人はホモ・ファーベル=ものつくる人
生産管理とは、ひとことで言えば、高品質で適正な価格のものを、適正なタイミングでつくりあげていくプロセスを支援する活動です。
長い歴史の中で、ものをつくるやり方は大きく変化してきました。
その意味で、生産管理もまた、時代とともに変化しています。
最初に、ものづくりの流れをざっとふり返ってみたいと思います。
①道具を使う
ものをつくるという行為は、他の生き物と区別して人間が行う活動でもあります。
チンパンジーは棒を使って、高い木の上にあるバナナを叩き落として食べます。
また、深い穴に潜んでいる好物のアリを取るためには、木の枝の皮を剥いて細くし、穴に差し込んでアリを釣り上げることができます。
ラッコが、水に浮いて腹に乗せた貝を使って巧みに貝を割り、中身を取り出して食べる食事シーンは、水族館で人気のショープログラムになっています。
道具を使うという行為は多くの生き物が身に付けた生きるための知恵ですが、しかし、エサを得る以外の目的で道具を使ったり、つくったりすることは、人類以外にはあまりないようです。
②道具を使う知恵
アフリカのギニア・ボッソウ村の森林は、京大霊長類研究所の研究フィールドですが、ここのチンパンジーは2つの石を使い、アブラヤシの実を割って中の核を取り出して食べることで知られています。
動物たちが理解できるのは、せいぜい2つの関係まで、ラッコが貝を貝で割ることはできますが、石の上に置いたアブラヤシの実を別の石を使って割るという、石- 実- 石という3つの関係を正しく理解し使用するには、何千年、何万年の歴史が必要だと言われています。
作物の栽培のような、時間的に遠く離れた因果関係を記憶する知性、しかも、食べるという本能に直接関係しない場面でそれが発揮されるのは、ヒトにしか見られない特徴でもあります。
③ものつくる人
その意味で、「ものをつくる」という行為は、人類が、サルから分岐して人類への道を歩み始めるそのきっかけとなった行為でもあります。
ものをつくる、道具をつくるという行為は、人間の尊厳と文明を支えてきた基本的な要素でもあります。
人がホモ・ファーベル= ものつくる人といわれるゆえんです。
④生産管理は人類の歴史とともに
人は有史以来、道具をつくり、使うという行為を行っており、それはサルと別れて人類が誕生する以前から行われてきた人類の歴史そのものに重なる、根源的な行為です。
ものをつくるプロセスを管理する生産管理という行為は、人類の歴史とともに始まっています。