これからの生産技術者の役割【第1部 】2.
これからのものづくりにおける工場の姿(5)
5 垂直立上げ
現在、厳しい環境の中で製造業にとっては、計画通りに商品を上市することがきわめて重要になっている。計画通りに商品を上市するとはどういうことか。
1つは、目標としたQCD(品質、コスト、納期)で上市することである。そのために、生産準備段階、量産段階で計画通りに進め、スムーズな商品立上げを実施することを垂直立上げという。垂直立上げはグローバルな視点でも求められる。市場戦略として、日本市場を含めた世界4拠点(日本、中国、欧州、アメリカ)同時立上げということが事業環境から求められるケースもあるのだ。
垂直立上げを実現するには開発・設計段階からの取組みが重要で、生産準備や量産プロセスをスムーズに通過するためには、源流段階からのコンカレントな取組みが不可欠である。設計構想段階や図面レビューから生産技術が関与することも有効で、CADやCAEといった開発設計支援ツールの活用も不可欠である。設計段階でシミュレーションを行うことで試作の精度を上げ、手直しや手戻りなどを減らすことができる。
垂直立上げを実現するには、商品開発の各フェーズで、それぞれの機能が何を検討して、何をアウトプットするのか、活動のマイルストーンを設定して関連部門が連携していくことが重要である。生産技術部門も同様で、垂直立上げにおける生産技術の役割はきわめて大きい。
垂直立上げの事例を自動車業界でみてみよう。
自動車はグローバル市場へ向けてグローバルな開発・生産を展開している業界である。図表1-8に自動車の新車開発期間の変遷と世界同時発売の事例を示す。自動車の新車開発期間は1980年代の48ヶ月から短縮化が進み、2001年以降は車体が共通のものについては、開発期間は9ヶ月にも迫ろうとしている。多くの車種をモデルチェンジしながら上市していくために、車体の共通化や部品の標準化、開発・設計ツールの積極的活用、試作回数の削減、試作期間・調達期間の短縮化を実現することで、開発期間の大幅な短縮化を実現している。このためには企画~開発~設計~生産技術~製造にいたる関連機能部署の有機的な連携が不可欠で、このような開発期間短縮インフラをベースにグローバル市場に対して世界同時発売に向けた垂直立上げを可能にしている。