ものづくり総合大会 オープニングセッション講演録①
ジェイテクト 新美篤志氏
『ダントツ ものづくり力の実現と人材育成』
日本能率協会、ものづくり総合大会事務局です。
2月15日~2月17日の3日間、第54回ものづくり総合大会が品川カンファレンスセンターにて、開催されました。ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。
本日より、オープニングセッションにご登壇頂きました4名の方々のご講演録を、掲載してまいりたいと思います。
本日は、ジェイテクト 新美相談役の講演録です。2017ものづくり総合大会では、ものづくり貢献賞の受賞記念としてジェイテクトの新美相談役に記念講演をしていただきました。
講演ダイジェスト
・世界の中での日本とは?
・今、モノづくり日本として製造業は何ができるか?
・人財育成で大切なことは?
新美氏は1971年トヨタ自動車工業に入社後、2009年に同社の取締役副社長を退任されるまで一貫して生産部門に従事し、現在は株式会社ジェイテクトにて相談役として活躍されています。
ジェイテクトは、2006年に合併して誕生した会社で、自動車向けのステアリングや、工作機、ベアリング等の製造もを行っています。『No.1&only1』というグループビジョンのもと、価値づくり、モノづくり、ひとづくりに日夜励んでいます。
世界の中での日本とは?
記念講話では最初に、日本が置かれる状況に関する数値について言及されました。日本は現在、人口減少による国力低下、資源・エネルギーの問題、高齢化や健康への不安等多くの課題を抱えています。1990年、2000年、2014年でGDPの比較をすると、アメリカが1位ということに変化はないものの2014年時点で日本は中国に抜かされ、世界第3位となっています。この約30年間、アメリカや中国が順調に成長し続け、他国も緩やかな成長を遂げている一方で、日本は全くと言っていいほどGDPの伸びがありません。一人当たりのGDPにも同様のことが言えます。
また、下位の国とも僅差であり、世界の中での日本の立ち位置が脅かされているのが現状です。この背景には、この60年で日本の人口が大幅に減少していることがあります。1947年には4.7人だった特定出生率が2014年時点では1.42人まで下がり、人口を維持できる水準を大きく下回る数値となっています。また、日本はエネルギーや食糧の自給率が極めて低く、他国からの輸入に大きく依存しています。
今、モノづくり日本として製造業は何ができるか?
『強い製造業』が戦後日本の経済の発展を支えてきた歴史を踏まえ、『モノづくり日本』として今、こうした課題に対して何ができるかというテーマでお話しいただきました。それが、本講話のタイトルでも触れられている『ダントツのものづくりの実現と、圧倒的な生産性向上』です。
世界経済を俯瞰してみると、この100年で人口は約7倍になっている一方で、経済規模は50倍にも成長しています。数回の産業革命を経て、世界的に生産性が大きく向上していることがこの数値から知ることができます。また、昨今もIoTやロボットの活用など、多くの新たな潮流が生み出され、モノづくりの世界に大きな変化をもたらしています。これらを踏まえたうえで、次の産業革新、技術革命に向けて私たちは日夜努力をするべきであると言及しています。また、それを実現する手段としては、以下の4つを実現することが必要であるとしています。
①7つのムダを顕在化してなくすこと。
・つくり過ぎのムダ
・不良・手直しのムダ
・手待ちのムダ
・動作のムダ
・運搬のムダ
・在庫のムダ
・加工そのもののムダ
これらのムダは一朝一夕にはなくすことはできません。
地道に、愚直に続けることの必要性を述べられました。
②ものの4つの状態をよく見ること。
製造業において、モノは「加工、運搬、検査、停滞」のいずれかの状態にあります。この4つの状態のなかで、価値を生み出すのは、「加工」の状態だけです。個々の行程の生産性をあげることで、生産量を上げることを可能にします。また、「運搬~停滞」の状態は原価の増減に影響をする工程です。この工程の無駄をなくし、①で述べた「7つのムダ」をなくすことが必要です。
③加工点を科学すること
さらには、②で述べられた「加工」工程のなかにも多くのムダは潜んでいるということを指摘されました。「加工工程」のムダをなくすためには、加工そのものを改革すること、良品としての条件を確立させて不良を根絶させるということが必須条件です。
④加工~生産方式の革新を行うこと。
一極集中・大量生産から、多品種・少量生産へとモノづくりは生産方法も大きく変化しています。時代の流れに即応し、柔軟に作り方を変えていくことの必要性、また売れるスピードを意識して生産を行うこと、100万でも、1個でも同じ原価、品質で作ることの重要性を指摘されました。
人財育成で大切なことは?
最後に、新美氏は人財育成に関して次のように述べています。どのような集団も、『自ら燃える人が1割、他人が火をつけると燃えることができる人が8割、何をやってもダメな人が1割』という構成比率である。ヨーロッパでよく使われる『石切り場の労働者』のたとえ話でも、同じ石切り場で働く労働者でも『自分の仕事はみじめな仕事だという人』、『妻子のため生活のために止む無く働いている人』、『自分は丘の上の教会の建設で使われる石を作っている!という自負を持って働く人』と玉石混合であるが、これらの違いは『自分の仕事が自らの手を離れた先に世の中と、どのように繋がっているかがわかっているか、そして目的を考えられているかという点、つまりは仕事の意義・価値観の共有・志を高く持てるかどうかという点』であり、人財育成においてはこれらを実現できるかが大きな要であるとしています。
人が育つにあたって大切なことは『問題解決の多さ、場数の多さ』であるということにも言及しています。チャレンジの場を与え続けることが、『めげずに考える人』を育ていきます。また、部下の育成には、『充分にコミュニケーションをとること、仕事は部下との知恵比べという思いを持ち、自分ならどうするか?と考え、決して答えを言わず、決してほめず、ただし必ずその頑張りをいつも見守るという姿勢が大切である』と、部下を持つ方々に向けたメッセージもいただきました。