239-2 木村輸出織物工場・事務棟跡(現:足利織物記念館)
事務所棟は、1911(明治44)年に造られたものを1987(昭和62)年に復元した。木骨石造2階建て、石綿スレート葺の洋風建築である。細部に小さな意匠が施された本格的な洋風建築である。現在は足利織物記念館として中には当時の取引記録や戦時中の資料等が展示されている。
当時、同社の取引先は国内のみならず世界に広がり、ここでつくられた織物製品は、主にインドやイランなど中東方面に売られた。支店網は輸出の本拠地だった横浜・神戸をはじめ、中国大陸の各地やアメリカなど世界に広がっていた。絹に刺繍を入れたハンカチなどがアメリカで大人気。それで一時代を画した。
隣に、旧木村家住宅があるが、塀に使われている赤レンガは、近くの助戸村にあった須長藤吉の工場で明治20年代に焼かれたもの。足利の渡良瀬川北岸、助戸村の東には、当時いくつかのレンガ工場があったようで、そうした会社は施工も行っていたようである。いまここは、助戸公民館の一部となっている。
足利織物記念館は、貴重な資料が展示されているが無人なので、基本的に閉められている。しかし公開されているので、業務中であれば、隣の助戸公民館にお願いすれば開けて見せていただける。一声かけて見せていただこう。
ここから渡良瀬川水運の河岸、猿田河岸はちかい。いまは、河岸のあったあたりにはそれらしい跡もなくなっているが、河岸には回船問屋が5件あった、などの話は、前掲の、通称“ピンポン寺”徳蔵寺に資料なども展示されているので足を延ばしてもいい。
次は、少し戻って東武足利駅近くの旧足利模範撚糸工場を見に行こう。
木村輸出工場の事務所棟。
階段の手すりの細工。しっかりした建築物であることが分かる。
アメリカ向けの輸出品の見本。絹地に細かな刺繍が入れられたハンカチやマフラーは、アメリカのご婦人たちの大人気だったという。
工場の隣にある創業者の木村家。塀の赤レンガは、足利のレンガ工場で作られたものだ。現在は、助戸公民館が管理している。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸