239 旧木村輸出織物工場――ハンカチの輸出で一時代を築く
足利の街は渡良瀬川が東西に貫き、流れを挟んで、北にJR両毛線、南に東武伊勢崎線が走る。
JR足利駅から東に車で10分ほど、県道67号が助戸で少し左に曲がる所を曲がらずに直進すると助戸公民館がある。
ここが木村輸出工場の跡地である。少し先を渡良瀬川の方に下りると、かつての水運の拠点・猿田河岸(やえんだかし)があったあたりに出る。一大消費地である江戸にそのままとつながった、輸送を考えた工場立地としても悪くない。
木村家の織物事業は、江戸時代後期に始まった。明治時代後期から大正・昭和にかけて、輸出織物の生産を先駆けるなど、足利で先駆的な役割を果たしてきた。
明治時代末になると、国内向けの絹織物から綿織物へ、そして輸出へと転換。
ボリュームゾーンをターゲットに、明治40年に渡良瀬水力電気会社の大間々発電所が完成した後は電気の供給を受けて、いち早く力織機を導入する。
現在ある工場は、1892(明治25)年に造られたものを1986(昭和61)年に復元したもので、昭和初期には、敷地1,162坪、力織機64台、従業員140名で、日本最大の輸出用の絹織物製造工場だった。
工場は、レンガ積みの基礎に木造平屋建寄棟桟瓦葺の白壁土蔵造り。天井は洋風の小屋組みで、現在はさまざまなイベントに利用されている。
木村輸出織物工場。白壁の土蔵造り。耐火レンガを使う前は、防火用に漆喰を縫って白壁にした。
木村輸出織物工場跡の標識

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸