236-2 足利氏の居館・鑁阿寺(ばんなじ)
すぐ裏にある鑁阿寺は、鎌倉幕府の要職にいた足利氏の根拠地となった中世の武家の館の跡である。
堀に周囲を囲まれ、うっそうと茂った樹木が邸内を隠す。広い庭園に、ゆったりしたスペースづかい、骨太の堀を渡る橋と、門、いかにも豪族の館である。
平安時代末期から鎌倉時代初期に足利義兼により居館として築かれたもので、本堂は室町幕府初代将軍足利尊氏の父・貞氏が正安元年(1299)に再建した。
建造物は、鎌倉時代に禅宗とともに伝わった最新の寺院建築様式が取り入れられており、傾斜がきつく反りの強い屋根、柱の間に組み物を入れて柱間が広くとられている構造上の工夫など、興味深い。鐘楼、経堂なども国の史跡に指定されている。
鎌倉時代の豪族の居宅だが、敷地が約4万平方メートルにも及び、土塁と堀がめぐらされて四方に門が設けられており、平安時代後期の武士の館の面影が残されているとして、「史跡足利氏宅跡」が、財団法人日本城郭協会が2006年に定めた「日本の名城100選」にも選ばれている。
座敷なども見られるので、ゆっくり往時をしのびたいところだが、今回の主題は産業遺跡、次に向かうのは、足利を繊維輸出の町に成長させる原動力となった木村繊維輸出工場の跡である。
周囲を堀に囲まれた鑁阿寺。一口の門もどっしり構えて、寄せ付けない権力を思わせる。中には広い庭園もあり、鎌倉時代の豪族の居宅の構造を残している。
居宅でありながら、堀に囲まれていることから日本100名城の一つにあげられている。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸