221 蚕種の保存を可能にした天然の冷蔵庫――星尾風穴
■1,000点をこえる国の文化財――南牧民俗資料館
南牧村の役場まえを過ぎて、南牧川にそってさかのぼると、やがて砥沢を経て、羽沢にいたる。交差点の裏にあるのが南牧生涯学習センターで、ここに同村の貴重な資料が残る南牧民俗資料館がある。
小学校跡を利用して設置されているもので、展示内容は生活用具をはじめ、農耕、林業、生産生業、教育文化、芸能、行事など、同村の歴史がそのまま詰まっている。
特に、砥石・養蚕・和紙・蒟蒻・麻など、南牧村の地域の特産品に関する日曜の道具類が残されており、貴重で大変に興味深い。
つい数十年前まで実際にどこででも使われていた養蚕の道具や資材が集められて展示されている。各家で使われなくなって残されていたものが集められており、自然消滅しそうな機材がこうして集められると、道具の歴史や工夫の数々がしのばれて、興味深い。
こうして村内から集められた約4,000点の展示品の内、1,031点が国の登録有形民俗文化財に指定されているというのは貴重だ。
富岡製糸場で仕事される前の繭づくり、さらには糸になってからの機織りなど、前後の作業がつながって、繊維産業の過程を見るようだ。富岡製糸場を見学する前後に、ぜひ音連れて見ておきたい。
■早くから使われた星尾風穴
ここの前の羽根沢交差点を右折し、南牧川に分かれて星尾川を15分ほどさかのぼると、星尾大橋の手前・左手に星尾風穴がある。通りから一段あがった、さらに奥にあり、上り口が分かりにくく、案内標識もほとんどないので、注意を要する。
規模的には荒船風穴に比べると小さいが、1905年(明治38)1月の創業で、産業遺産として登録された荒船風穴、東谷風穴よりも早くから利用されていた貴重な施設である。
ここが産業遺産として登録されていないのは、個人所有で管理がきちんとできないという理由によるが、これは残念。山際の畑面にひっそりと残されている状態であり、荒らされないうちに何とか整備して遺産登録したい貴重な施設である。
岩の隙間から冷風が吹き上げる山際の風穴を深さ1.5メートルほど掘り下げ、間口2間=約3.6メートル、奥行3間=約5.5メートル、高さ10尺=約3メートルのスペースを石で囲って貯蔵庫を造り、蚕種約2万枚を貯蔵した。
貯蔵温度は、4.4℃~7.8℃で、屋根や囲った貯蔵小屋がなくなって風穴がむき出しになったいま、流れ出てくる冷気がひやっとする。
まさに天然の冷蔵庫である。風穴の右並びに管理事務所があったそうだが、それもいまはない。できればしっかりと整備し、保存したいところだ。
民俗資料館には江戸時代以降の養蚕から製糸・機織りに使われた道具類がしっかりと保存・展示されている。
星尾大橋の手前、Y字の道の真ん中に立っている案内の看板。ここで車を左に寄せて止める。案内はこれ一つ、説明図の位置が分かりにくいので、よく確認したい。
風穴の全貌、この中に木組み棚が設けられ、屋根もついて倉庫が作られていた。おかれていたのは、蚕種を植え付けた紙で、低温保存することで、蚕種が孵化するのを防ぎ、養蚕時期をコントロールすることができるようになった。
星尾風穴。間口2間、奥行3間と小ぶりだが、貯蔵2万枚。入り口手前に直径10センチほどの風穴があり、冷たい風が噴き出ている。
風穴の風の出口。石垣が組まれた風穴内の石の間の隙間から、山の地下を通り抜けてきた風が噴き出す。ひんやりした冷気が流れ出てくる。温度は4-5℃。夏でも寒くなるほどの冷たさだ。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸