213 富岡製糸場の赤レンガを焼いただるま窯
明治4年、笹森稲荷神社に近くにだるま窯が作られ、富岡製糸場のレンガと瓦が焼かれた。
書いてしまえは簡単に見えるが、実はこれは大変なことだ。なんといっても使う量が半端ではない。
富岡製糸場の建物を作るために、必要な赤レンガが117万丁(建物とレンガ塀)、屋根瓦40万枚(総屋根坪数2950坪)という膨大な量である。
「だるま窯」は、16世紀の初めころから使われていた土をこねて盛った窯で、その形がだるま大師が座禅をくんでいる姿に似ていることから名付けられた。
当時のだるま窯は残されていないが、2006年、甘楽町を拠点に活動する「新屋根開拓集団 屋根舞台」によって、近くの甘楽町ふるさと館にだるま窯が復元された。
太めのユーモラスな形は江戸時代らしい雰囲気をつたえてなかなかいい。これも一見の価値がある。
だるま窯で瓦を焼くと、1回の焼成に数日かかり、1回で焼ける瓦が約1,000枚、というのが一般的である。
富岡製糸場に必要なレンガ・瓦が合計で160万枚。ということになれば、1,600回の焼成が必要になり、1回の焼成に5日かかるとして、合計日数はその5倍の8,000日になる。
それを工期わずか2年=365日×2=730日で作るとなれば、休日なしの突貫工事でも11窯がないと、納期に間に合わない。余裕を見れば、どうしても15窯ほどが容易したいところだ。
15窯が昼夜兼行で火を入れたレンガと瓦を焼くとしたら、どれだけの人数が必要なのか。付近一帯は、不夜城のごとき光景が展開されたに違いない。
考えただけでも気の遠くなるような光景である。
しかも、建設重機はまだない。粘土の掘り出しから輸送、全てが人手作業である。
どうやって納期を間に合わせるか、現代の私たちが考えても、かなり難しいプロジェクト管理である。
甘楽町ふるさと館に2007年に復元された「だるま窯」。手前と裏に火を入れる焚口がある。
だるま窯の構造図
だるま窯の炉内。瓦・レンガは1,000枚ほどしか入らない。量産はできないが、最近では、手のかけ方でさまざまな変化が出せる。
だるま窯。常時公開されている、炉内も見ることができる。
ふるさと館にあるだるま窯の看板。
復元されただるま窯のテスト制作で焼かれたレンガが看板に使われている。
だるま窯がある甘楽町ふるさと館。宿泊施設もあり、瓦の手形づくり、こんにゃく作りなどの体験もできる。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸