ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

210 富岡の隠れた主役:伝習工女

■新しい時代を切り開いた武士の娘
富岡製糸場の設立のねらいは高品質で安定した生糸を生産し、外貨を獲得することにあったが、それを官営で始めたのは一つのねらいがあったためである。
というのは、版籍奉還・廃藩置県で主家と家禄を失った士族、つまり武士たちが新しい仕事を見つけねばならない。秩禄処分といって、いくらかの資金をもらって武士を廃業させたが、武士の商法という言葉もあるように、なかなか自立するのは難しい。
そこで、武士たちの資金と力をあわせて新しい事業として、全国に器械製糸事業を展開する、その模範にしようという意図があったのである。
そのため、工女として全国から集められたのは士族の娘たちで、富岡製糸場で器械に繰糸法を学び、各藩にノウハウを伝授する研修生という意味で伝習工女と呼ばれた。

創業にあたって、全国の藩に13歳~25歳の工女募集の告知を送ったが、なかなか集まらなかった。
赤ワインを飲むフランス人の姿から、フランス人は血を飲むとのうわさが広まり、富岡の工女になると血を飲まれ、油を搾られるなどの風評が伝えられて、しり込みされてしまったのだ。
そのため、製糸場の初代工場長尾高惇忠は自分の娘・尾高勇(ゆう)を工女として送り込むことで無害をアピール。
旧松代藩から応募した横田英も、松代で募集にあたった父親・横田数馬が、自らの娘を派遣することで、工女の応募を促した苦肉の策でもあった。

■女工としての自負と誇り--週休制、定時労働、医務室完備
2014年、イコモスが富岡製糸場を文化遺産として登録すると発表された時に、「製糸場は女工哀史の舞台の工場だ。そんなマイナスイメージの向上を文化遺産とはどういうことだ、けしからん」と反対を叫ぶ人たちがいた。
しかし、これは違う。この富岡製糸場こそ、日本人の労働の意識を変え、むしろ、時代の先端を行く、フランス式の自由・平等・博愛の精神で運営されていた、きわめて近代的で先進的な工場だったのである。

後に語られる、製糸場の女工哀史に代表される、酷使される女工のイメージはずっと後の明治末から大正年間にかけて日本の産業が資本主義体制を確立しようとしていたころの、紡績・織布工場などで行われていた就業実態を指す言葉だ。
富岡製糸場の時代は、まだまだ初の近代的工場として手探りで時代環境の中では考えられないほどの理想的な勤務実態を行おうとしていたころの話なのである。

それを可能にしたのは、国営で、しかも集められた工女たちは、士族の娘中心であった、などが大きいが、同時に、運営に当たったのが、フランス人であり、指導者としてフランスの女工たちがきていたということもあった。工女運営、管理がフランス流でおこなわれたのである。

伝習工女たちの処遇は、定時労働、日曜定休、病院(診療所)にはフランス人医師がいて入院施設もあり、花見や盆踊りなども行われ、極めて近代的だった。
これは、首長のブリューナが、先行するヴェルニーの横須賀製鉄所にならって、フランス式の管理法を導入した結果である。

給料も、技術の等級に従って決められ、明治6年には1等工女1円75銭、2等工女1円50銭、3等工女1円、中回り(班長)2円だった。
工女たちは、金額はともかく、故郷の期待を背に受けて、最先端の官営の工場で学ぶ選ばれた存在として自負と誇りを持っていた。
なによりも、国を外国の侵略から守るために、生糸を販売して外貨を獲得すると教えられており、製糸場で働くということ自体が誇りでもあった。


松代藩家老・横田数馬の娘で、工女として率先して応募し、お国のために貢献することを誇りとした。女工としては優秀で、常にトップの成績を収めた。富岡製糸場を務め終えたのちは、国に戻り、器械製糸技術の伝習生として松代藩での器械製糸の指導に当たった。富岡市の製作で、『紅い襷〜富岡製糸場物語〜』として映画にもなった。


富岡製糸場工女勉強之図((群馬県立図書館所蔵)

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。

梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。

写真撮影:谷口弘幸


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