ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

207 明治初期のロジスティクス――フランス製の輸入器械を運ぶ

 こう書いてくると、ことは理想的に進められたように思えてくるが、これらは実は大変なことなのである。
私たちの中には、建設資材や設備の輸送は鉄道でという前提があるが、実は、上野から高崎までの線路が開通するのは12年後の明治17年(1884年)である。横浜に着いたフランス輸入の繰糸器械を、どうやって富岡まで運び込んだのか。

 江戸から富岡への道は、基本的に中山道を通る。
中山道は、日本橋から発して、板橋-蕨-浦和-大宮を経由して熊谷を過ぎた後、深谷-本庄-新町-倉賀野を経て高崎に到達する。
ここまで日本橋から105km。高崎から上信電鉄で富岡まで20km。この中山道には、江戸時代には駅伝馬があり、明治になって、馬車輸送が活発にお利用されていた。しかし、たくさんの重量物を荷駄で運搬するのは大変である。

そこで使用されたのが水運。もともと、古くは利根川は江戸湾に流れ込んでいた。是が江戸に頻繁に洪水をもたらすことから利根川の流れを変えて銚子に流れるように工事を行った。これを東遷と読んでいるが、これによってもともと低地だった江戸の水害を減少させることができた。
この結果、利根川から荒川を経由して江戸に荷を運ぶルートが作られていた。荒川から、利根川の支流・烏川をさかのぼって倉賀野、平塚(現・伊勢崎市境平塚)まで運河が切り開かれていたのである。
横浜に入港した荷物は、船からはしけに積み替えて東京へ、さらに倉賀野まで運ばれ、そこから荷駄にして牛馬の背で富岡まで運ばれたのである。
場合によっては、倉賀野から分かれる鏑川をさかのぼり富岡製糸場まで運ばれたこともあったろう。距離にしてわずか、20kmほど。大量の重量物を運ぶには効果的だ。逆に、江戸への荷の出荷は、流れに任せればよい。船便の方が早くて大量に可能だ。

■江戸と上信越を結んだ倉賀野河岸
倉賀野(高崎市)という名前を聞いたことがある人は、少ないだろう。いまではあまり名前は聞かれないが、幕末には、中山道と日光例幣使街道の分岐点として、本陣1、脇本陣2、旅籠が六十数軒ある交通の要衝だった。
そして何よりも、明治17年に高崎線が開通するまでは、利根川-烏川水運は江戸と上信越方面を結んで上信越のコメを江戸に運ぶ輸送の大動脈であった。
倉賀野は、水運の上流の要の位置にある河岸として、舟運搬の一大拠点となっていたのであった。
倉賀野に河岸が作られたのは1561年に、地元民10人ほどが回船業を開始したのが始まりといわれている。
利根川水運の最上流地点で、江戸時代には上信地方の物産を江戸へ運び栄えた。最盛期には、旅籠屋71軒、茶屋9軒、商家34件、造り酒屋2軒があり、倉賀野のにぎやかさは大変なものだったという。
明治17年の高崎線の開通以来、舟運は役割を終え、倉賀野河岸は次第に忘れられていくことになった。
かつて河岸があったあたりには、かつての栄華を思わせるものはほとんどない。

製糸場というと、生糸の生産や煉瓦造りの製糸場の建設に目が行きがちだが、それらの前後に不可欠な物資の運搬だけをみても、全国どこでも翌日配達という現代からは考えられない難事業だったことがよくわかる。
すべて人出で行うしかなかった時代に、こうした事業を短期間に完成させた、先人の偉大さを改めて知る思いがする。


中山道(江戸道)と日光例幣使街道(日光道)の分岐点。閻魔堂と立派な常夜灯、道しるべがある。


道しるべ。右(江戸道)、左(日光道)と書かれている。


河岸があったあたりは「河岸公園」として整備されており、「倉賀野河岸跡」の碑と、倉賀野河岸について紹介した「倉賀野河岸岸由来」がある。


かつて河岸があったあたりは、いまは何もない。烏川にはかなりの水が流れていて、それだけがかつての水運の隆盛をしのばせる。


倉賀野は江戸時代には隆盛を誇った、歴史的にも興味深い街であり、旧家も少なくない。そんな中に、養蚕農家もいくつかある。2つの櫓が設けられている清塚家。敷地内には土蔵も残されている。

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。

梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。

写真撮影:谷口弘幸


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