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ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

204 富岡製糸場――近代化を急いだ日本ものづくりの模範工場

 富岡製糸場を訪問するならば、ぜひ、仲町の角からゆっくり歩いて、製糸場に向かってほしい。
それが一番自然なルートだけれど、理由はふたつ。
ひとつはこの寺社の参道のような道をたどっていくことで、次第に目の前に現れてくる製糸場の赤煉瓦倉庫の巨大さが実感されるということ。
そして、ややタイムスリップした感のあるこのアプローチを通って近づくことで、やがて目の前に現れる建造物の大きさが、当時近づいた人間の実感としても感じられるようになるからだ。

フランス式の建造物ということで耐火の意味で、煉瓦が使われているが、当時の日本には煉瓦はない。
この巨大な建物を作るには、まず、煉瓦造りから始めなければならない。
3階建て、100メートルにも及ぶ建物に求められる枚数はとんでもない数になるが、その煉瓦づくりをまかされたのは、伝統の深谷の瓦職人だった。
富岡製糸場の工期はわずか3年。建設重機だけでなく、物資を輸送するトラックや電車もない時代のことである。想像できるだろうか。
煉瓦造りでさえ初めての体験で、生産量も限られている中で、わずか2,3年でこうした巨大な工場を完成する建設力、あるいは総合的なプロジェクト管理能力はどこから来るのだろうか。

あなどれない漢学者の実力
責任者として努めたのは、漢学者尾高惇忠である。
江戸時代、各藩では築城、河川工事など多くの土木工事が行われている。それらを指揮したのは、学者、つまり漢学者、軍学者である。江戸時代学者といえば漢学者だった。最後の法になってやっと、蘭学が取り入れられたが、基本は漢学だ。
江戸時代に各藩は参勤交代が義務付けられていた。参勤交代はただの移動ではない。武家諸法度から言えば、行軍である。
だから、日程やコースなど準備から実施まで軍学者の仕事。それを、安全に、早く、いかに費用を安く抑えて済ませるか、軍学者に課せられた大きな課題である。
参勤交代をただ歩く=物見遊山の旅行と考えてはいけない。各藩は禄高により参勤の陣容も決められている。
百万石の加賀藩では、行列は総勢2,000人を超えるという。
その2,000名の宿、賄いを提供しながら江戸を目指す。雨で川が渡れなければ足止めを食らい、予定がずれる。
今日の泊りは、一つ先の宿場を予定してすでに賄が先行しているが、本体は足止めを食らっている。すぐ後ろから別の藩が続いている。さて、今宵の宿はどうする? 賄はどうする? 
こうしたことを軍学者はしっかりと計画し、準備し、何事もなく済ませなければならないのである。大変な作業である。
加賀藩には軍学者が開発したという、金沢から江戸までの11泊12日~9泊10日の自在にコース選択できるダイヤグラムが作られていたという(『参勤交代道中記』、忠田敏男、平凡社)。
予定が狂ったとき、遅れを取り戻したり不測の事故で予定していた街道がいけなかったり、宿場で宿がと入れなかったり・・・そんなときに、しっかり抜け道を用意しておけば、慌てずに少しの修正で予定を大きく崩さなくても済む。自在にコースを変えられるように、本街道や脇街道などぬけられる道をつなげたPARTのダイヤグラムである。
古い漢籍などからの知識を基本に、富岡製糸場の工場づくりを円滑に進めたとすれば、漢学者の素養、おそるべしである。

 製糸場を見て、最初に感じるのは、目の前に見えてくる建物の大きさである。
そして、中に入って驚くのが保存状態の良さ。
この2つを実感として味わうことから、富岡製糸場の見学を始めたい。
南を鏑(かぶら)川に面し、西北東の3方向を煉瓦塀に囲まれた約1万5600坪の敷地内が、ほぼ当時の姿で保存されている。
1939年以来、製糸工場として事業を展開しながら、保存を心掛けてきた片倉工業株式会社の努力に負うところが大きい。


これだけの煉瓦を短期間で作るには、さながら不夜城のごとく、昼夜を分かたずに火を燃やし続けたに違いない。


富岡製糸場の正面に掲示されている案内図


参勤交代のダイヤグラム。11泊12日と9泊10日の両用のダイヤグラム。1 日行程で並べられ、どの宿場ならどんなルートが選択できるか、自在に組めるようになっている。加賀藩の軍学者有沢永貞が考案したもの。
 

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。

梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。

写真撮影:谷口弘幸


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