製造戦略が最大の経営課題
ものづくりグローバル標準マネジメントの実践
第3章 製造戦略構築と戦略実践のポイント
1)製造戦略が最大の経営課題
グローバルでのものづくりにおいて、製造戦略の位置づけは従来に比べ高くなっている。
その理由として、グローバル化に至る背景の中で、
①ものづくりが複雑化していること
②競争条件が高度化していることの2つがあげられる。
①ものづくりの複雑化
ものづくりの複雑化とは、
・多層に渡る製品ラインナップ展開
・市場の発展段階が異なる複数市場への供給
・生産地と消費地の不一致によるものづくりネットワークの複雑化(サプライチェーンの複雑化と読み替えてもよい)
・ODM/OEM/EMSという開発・生産委託先活用の拡大
・部品レベルでの競合との相互供給や共同購買などの連携範囲の拡大……などである。
これらは、供給階層・供給先の拡大と内製範囲の縮小の結果と言ってもよい。
i)供給階層・供給先の拡大
供給階層・供給先が拡大したことについては、日本のグローバル化に至る背景が影響している。
つまり、高度成長期に至る段階で売上とシェアを至上とする考え方で拡大方針をとってきた結果、製品のフルラインナップ化が進み、必然的に供給先が拡大した。
一方、今日では、成熟化・縮小化の一途を辿る国内需要に対して、企業・事業の規模を維持するために成長市場への進出を余儀なくされ、それも供給先を拡大する要因となっている。
ii)内製範囲の縮小
同様に、内製範囲の縮小も日本のグローバル化に至る背景が影響している。
つまり、
・需要ある市場への輸出を目指せば、消費地での関税が前提となり、これを避けて、消費地での生産を進める
・労務費を中心とするコストパフォーマンスを求めて海外に生産拠点をシフトする
……などの結果、納期・コスト・関税の点で、材料・部品の調達を生産地で行う方がメリットが大きということで、結果として内製化比率を低下させる方向に進んできたのである。
もちろん、企業の中には材料の加工歩留りの悪さや輸送効率の悪さから、早くから、供給地・消費地で生産を行ってきたところもある。
また、製品ラインナップのみならず新規事業の展開もものづくりの複雑化を進めてきた大きな要因の一つである。
事業を複数展開したことによる複雑性から来るコスト増を低減するために、扱う部品やユニット、製品をコア/ノンコアに仕分け、ノンコアとみられる部分を外製化してきたことも一因である(ちなみに、米国などでは事業ごとにコア/ノンコアを仕分け、事業そのものを手放すといった荒療治が行われることが多いが、日本ではそこまでは進めないことが多い)。
外製化が進んだ背景には、他にも部品やユニットのモジュール化への進展があげられる。
家電や自動車などは従来、高度すりあわせ型のアーキテクチャーを持っていたのであるが、技術革新が進んだ結果、それらのIT化・共通部品化が進み徐々にモジュラー型へとシフトしていった。
これは、共通化・標準化範囲の拡大と読み替えてもよい。
製品バリエーションの複雑性を持ちながら、ものづくりでは共通化を進めることで、コストメリットを得やすくしてきた。
共通化は機械化・自動化の範囲の拡大と技術の平準化を意味し、設備さえ購入できれば類似の加工ができるようになる。
EMSなどの工程分業型企業が生まれたのは、日本の労務費水準が高くなり内製化するメリットがなくなってきたほかに、技術の平準化が進んで、新興国でも十分な品質での加工が可能になったことにもよる。