サプライチェーン全体を踏まえたBCP
ものづくりグローバル標準マネジメントの実践
第1章 グローバルものづくりで考えておくべきこと
2011年3月11日。未曾有の大震災で、東北地方が大きな被害を受けた。
当然、多くの企業では事前に被災をリスクとして考慮していたはずであるが、そんな中で、自社工場以外の部品・副資材、素材・原材料までの多階層にわたる調達網の供給リスクを考慮していた企業は少なかったのではないだろうか。
グローバル化する市場の競争で新興国が台頭しつつあるときに、自社が生産を停止することは、そのまま代替企業にマーケットシェアを奪われる危機となる。
今後、グローバルにものづくりを進めるには、生産のあり方やサプライチェーン編成も、十分にリスクを加味して構築しておく必要がある。そのうえで日本のものづくりの強みを発揮することが大切である。
1)管理しきれない複雑なサプライチェーン
素材・部品加工企業の操業停止が、即、完成品メーカー操業停止につながるというケースが震災後に多く見られた。
完成品メーカーの立場からすると、素材や副資材の生産に関わるところまではサプライチェーン網を管理しきれていなかった。チェックさえしなかったというのが実態だろう。
身近な例としては、鹿島のコンビナート(ポリエチレン・ポリプロピレン)が操業停止してしまった結果、合成樹脂メーカーがフィルムを加工できず➡印刷会社がパッケージを印刷できず➡納豆メーカーが包装資材を調達できず➡結果として納豆が店舗に並ばない、というサプライチェーンの実態を、体験されたと思う。
これは、サプライチェーンの「深い」階層での問題が上位に影響してくるタイプである(図表1-1)。
階層の「深さ」に加えて「広さ」が影響する例として、自動車・家電などがある。
数万から数十万の部品や副資材が組み込まれたシステム製品では、サプライチェーンの複雑性はツリー状にネズミ算的に増加している。
一方、自動車業界では、ダイヤモンド構造と呼ばれるような、数少ない完成車メーカーの下に多くの協力企業が存在し、tier1、tier2、さらにtier3、4、5と階層が深くなるにつれて、少数の特定の事業者に生産が集中していたことがこの震災で再認識された。
その中で、構成される1つの要素(素材・部品・副資材)でも欠けると生産が止まることになる。また、調達できない場合、代替品探索ということになるが、代替品の利用には実験・耐久性試験など時間を要するため、すぐに切替えはできず、完成品メーカーの生産を長く止めてしまうことになる。
事実、経済産業省ホームページによると図表1-2のようにサプライチェー ンの被害状況があり、産業面からの被害も甚大である。
大手完成品メーカーや大手メーカーはBCP(Business Continuity Plan : 事業継続計画)に取組んでいることが多く、自社工場の事業継続に関わるさまざまなリスクについては管理下に置いており、復旧期間も短めであった。
しかし、サプライチェーン網の下位メーカーや中小企業の一部が長期の復旧期間を要したことから、大手完成品メーカーも生産開始までに長時間を要してしまったケースもあった。また、キーパーツが特定メーカーへ集中していたため、セカンドソースを得にくく、生産までの時間を要しているケースも散見された。
今回の場合、災害そのものによる被害の大きさに加え、サプライチェーン網が管理不能に陥るという想定外の事態となったのではないだろうか。
今後は、関連サプライチェーンをより広域で網羅的に捉えた上で重点化し、対象サプライチェーンのBCP策定を行って、対応レベルをあげることが望まれる。