059>明治9(1876)年からわき続ける水
走水神社からさらに進むと、国道16号線は海岸と離れて高台にのぼる。しばらくの間、下に走水漁港と漁港に渡る伊勢町橋、走水海岸と東京湾を望む絶景が続く。ここは運が良ければ、富士に沈む夕日が見られるという東京湾眺望のポイントらしい。
この道はしばらくするとすぐに下り、右手に大きな駐車場が見えてくる。すぐ裏は走水海岸、そして隣は走水水源地管理センターである。駐車場に給水用の蛇口が設置されており、多くの人がポリタンクやペットボトルなどに水を詰めている。
この水源地は、明治9年にヴェルニーらがここから内径12.5センチ、長さ1メートルの土管をつないで約7km離れた横須賀製鉄所まで高低差で水を引いた。この水は、いまでも、横須賀市営水道として、内径25センチの鉄管で毎日2千立方メートルの水が供給されている。この水源は、関東大震災でも枯れなかったことから、横須賀市の災害時の補給基地になるほどの、折り紙つきの水源地である。
国道を挟んで反対側に旧水源地がある。古いレンガの塀で囲まれた中は見られないが、地下に貯水池がある。壁のレンガは、どういうわけかイギリス積みである。レンガ塀に、出入り口や窓だったところが長手のレンガでふさがれて、アーチ形の模様がつけられている。色が違うのは、後から新しい煉瓦で塞いだためだ。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸