053>209年続く渡し船――海の上の市道
浦賀駅からここに来るまでのちょうど真ん中あたりに、湾の対岸とむすぶ渡船の乗り場がある。享保5(1720)年に浦賀奉行が西浦賀に置かれると、「船番所」も作られ、浦賀湾は船改めを受ける船があふれ、町には人も集まって大いに栄えたという。しかし、東西に分かれた浦賀の町は、間に深く切れ込んだ湾が邪魔をして、わずか300メートルほどの対岸に行くために、湾をぐるっと3kmほど歩かなければならなかった。
そこで、享保10(1725)年、東-西浦賀の間を行き来する渡船が設けられた。以来290年、通勤や日常生活に欠かせない交通として変わらずに運行されてきた。実はこの渡船、現在は民間に委託されて運営されているが、唯一の横須賀市営の交通機関で、この航路は「浦賀海道」と名付けられ、2073号線として登録されているれっきとした海の上の市道なのである。
渡船場は、東叶神社と西叶神社の近くにあり、どちらにも、レトロな待合室が設けられている。いまは機械船になっているが、昭和30年ころまでは櫓を使った手漕ぎの船だった。
渡船料金は1回150円、中学生以下、自転車は50円である。東西間の距離は400メートルほどで、所要時間は10分弱。4.8トン定員13人(船員1人、旅客12人)の愛宕丸が1隻でピストン輸送していて、渡船場入り口に呼び出しボタンがあって、愛宕丸が対岸にいる時にはボタンを押すと迎えに来てくれる。
運行時間は毎日7:00~18:00頃まで、時刻表はなく、客があれば運行し、いなければ、どちらかで客待ちをしている。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸