横須賀製鉄所――造船王国・日本の源流
6.戦艦三笠と猿島――日露海戦を勝利に導いた旗艦と要塞の島
043>要塞の中を散策する
島内散歩のスタートは管理事務所から。すぐ裏に、明治時代につくられた発電所がある。もちろん島内用だ。この横の道を上っていくと、切り通しに出る。右に壁をくりぬいてレンガをはめた兵舎跡や弾薬庫が見える。中もきれいに整備されているが、入るには事前の申込みが必要だ。兵舎の上には階段が付けられていて、かつては砲台があったがいまは藪の中だ。この要塞で多くの兵士が生活をしており、トイレも風呂もあった。写真はトイレの跡である。
感心するのは、兵舎や弾薬庫の出入り口や窓の装飾、上部アーチなどがていねいに作られていること。軍施設であるが故の、張り詰めた気持ちを癒そうとしたものだろう。切り通しはトンネルに続き、トンネルの中にも、弾薬庫など施設がつくられていた。
トンネルを抜けて少し登ると、砲台跡があちこちにある。いまは木々が茂って島外への見通しはあまり良くないが、この茂みを、隠れ蓑として利用すれば、要塞としては悪くない環境にあるのだろう。
帰りがけに寄った管理事務所近くの広場には三角点があった。ぐるっと島内を一周すると、およそ1時間。帰りの渡船は1時間おきなので時間を調整し、適当に休憩を入れながら余裕を見て回ると2時間は必要か。古びて苔むした、緑に囲まれた道は気持ちよく、草いきれを吸いながらの散歩は日ごろの疲れも癒される。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸