横須賀製鉄所――造船王国・日本の源流
1.150周年を迎えた現役ドックの宝庫
003>一度は見たい横須賀のものづくり遺産
JR横須賀駅からヴェルニー公園を、ほんの2,3分進み対岸をみると、「3DRY DOCK2」と書かれた2階建ての建物が見える。左に3号ドック、右に2号ドックを控えた、ポンプ小屋である。小屋の左右の海面すれすれに「A」と書かれた文字が見える。これがドライドックのゲート(船渠)で、このゲートを開けて海水を入れて船を引き込み、海水を抜いて船体を修理する。
30メートルほど右にもう一つ「A」と書かれたゲートが見える。これが1871年につくられた日本最古の石造りドライドック1号のゲートだ。
この横須賀港、何げない風景の中に、100年を超える産業遺産がたくさん隠れているのだ。横須賀には以下のような貴重な産業遺産がたくさんある。
・横須賀製鉄所で使われたオランダ製スチームハンマー(ヴェルニー記念館)
・フランスの軍港ツーロンをモデルにつくられた横須賀港・長浦港
・日本における造船技術の原点となる3つのドライドック
・日露戦争の旗艦となった戦艦「三笠」(記念艦「三笠」)
・1869年に点灯した日本初の洋式灯台(観音崎灯台)
・1848年につくられた和式の灯台(浦賀燈明堂)
・290年間続く渡し船(浦賀渡船)
などなど。
これはどれも造船王国日本を生み、現在の日本の高度なものづくりを構築した出発点になるものなのだが、それだけではない。フランスの指導で運営された横須賀製鉄所では、明治初年の時点で、定時労働、週休制、年金制度、職場内職業訓練校・・・などが導入されており、近代的なマネジメントを確立するための先駆的な役割も果たしているのである。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸