「日本のものづくりは、世界の財産である」(100)|第八章 ものづくりの将来性と潜在力 〜和のものづくりの底力と潜在力〜
万物に神が宿る、最近ではトイレにさえ、それはそれはきれいな女神さまがいるとする日本人の発想は、共生という切り口で見れば、宗教的というよりも魂のコスモロジーという方がふさわしいひろがりをもっています。
八百万の神や、ロラン・バルトが言う換骨奪胎、さらには融通無碍、清濁併せのむ、お客様は神様です、などという言葉は、例えばフレキシビリティやダイバシティ、カスタマー・サティスファクションといま風のことばで言い換えてみると、それはグローバルな時代にも通じる最先端の考え方になります。そしてこれらは、日本人には、長い歴史のなかで使い慣れてきた土着の思想でもあります。
たとえば、こんな商品をご存知でしょうか。
お湯をさすだけで食べられる、生みそを使ったインスタントみそ汁があります。あるメーカーの製品の10食パックは、生みそと具の小袋が10個ずつ入ったものですが、みそと具の小袋が、/みそ10個/具10個/とまとめて10個ずつ入れられているのではなく、/みそ/具/みそ/具/・・・と一個ずつ対になって交互に入れられています。
購入した客は、調理に際してみそと具の袋を一つずつ取り出す必要はありません。隣り合った任意の2袋をつまんで取り出せば<みそ>と<具>が一つずつ取り出せるようになっているのです。異なったものを交互に隣り合って封入するためには、生産工程でひと手間多く必要ですが、そんなサービスに価値を認めてコストをかけるのは、日本くらいでしょう。
そんなサービスにどれほどの価値があるのか、と問うのが、これまでの西洋の合理思想です。しかし、そんな彼らが、いまは、日本式のゆるい、おもてなし発想に価値を見出し始めています。洗浄トイレの人気なども、言うまでもなく、日本のおもてなし精神から生まれた商品と言えるでしょう。
西欧の人たちも、すごいですね、文明の最先端を走りながら、あらゆるきっかけを利用して、新しい価値を求め、受け入れて、自らを変えようとしています。
いま、「おもてなし」や「もったいない」などのことばが海外でも話題になっています。最近は、日本の価値観から生まれた新しいサービスや行動様式を心地よいと感じる外国人も増え、日本に駐在したビジネスマンたちのなかには、帰国する際のみやげに洗浄トイレを買って帰る人も少なくないそうです。中国人の爆買いもその一例でしょう。
西欧の科学技術や合理性を導入し、精いっぱい活用してきた私たちが、ものづくりやマネジメントをはじめとする世界で、改めて日本古来の伝統的な共生の発想や行動様式を活かして新しい価値を提案していくのは、これからです。やっと、その緒についた所です。
まだ、私たちには、私たち自身が気付いていない大きな潜在力、可能性があります。やっとそうしたものが力になる時代がきたと言っていいと思います。 日本のものづくりが本当に力を発揮するのはこれからなのです。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸