「日本のものづくりは、世界の財産である」(95)|第八章 ものづくりの将来性と潜在力 〜チャンスは「ニア・ハイ」にあり〜
この原稿を書いているときに、偶然こんな話を読みました。ちょっと面白かったのでお付き合いください。
サッカーの国際マッチでは日本チームの決定力のなさがよく指摘されます。ヨーロッパの強豪チームなら確実に一点というところで、日本チームはしばしばゴールを外し、惜しい試合展開になるというのが、デジャヴのようなお決まりのパターンです。
それに比べて、メッシやロナウドなど、世界的なストライカーのゴール決定力は圧倒的だと評論家の中村僚はいいます(「『落ち着け』では解消しない! 日本人選手に決定力がない本当の理由」http://www.footballchannel.jp/2013/06/08/post5210/「フットボールチャンネル」2013年6月8日)。
日本のストライカーと彼らとの違いはどこにあるのか。一般にサッカーのゴールには、三種類があるそうです。
A・GKがとどかないゴールマウスぎりぎりのミドルシュートや、鋭利なカーブを描いた直接フリーキックなど。
B・GKが反応できない、視覚外から放たれたシュートやフェイントでGKを抜き去ってから放つシュートなど。
C・別段、球速があるわけでもなく、タイミングをずらした形跡もない。それでもあっさりとゴールに収まるシュート。具体的には、GKの顔の横や肩口、股間、倒れ込んだ際の脇の下など、一部で「ニア・ハイ」と呼ばれるシュート。
日本のJ1、J2でのゴールと、メッシ、ロナウドのゴールを比較したところ、
Aのゴールは、メッシが68%、ロナウド70%、Jリーグが70%と変わらない、
Bでは、メッシ、ロナウドは共に12%、Jリーグが22%と差があり、
Cはメッシ20%、ロナウド19%に対して、Jリーグは8%止まり
つまり、日本の選手はGKから遠いコーナーや死角を狙って外してしまうケースが多いが、メッシらはGK近くの「ニア・ハイ」を狙い成功させる確率が高いという。
そして、このことを少年サッカーチームに教えて、ニア・ハイを狙わせたら、得点力がグーンと上がった、といいます。
サッカーのゲームに関して、紹介されたような内容が本当に正しいのか、専門家ではない私には、正否はわかりません。しかし、この話、なにやら、独自の研究開発から取り組んでヒット商品をなかなか出せない日本の企業と、既存の技術にあるものを活用して(ニア・ハイ)、ヒットを連発するジョブズとの違いを、ほうふつとさせるような話ではありませんか。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸