「日本のものづくりは、世界の財産である」(88)|第八章 ものづくりの将来性と潜在力 〜ハードとソフトの融合〜
この議論の立て方には少し違和感をもちます。それは、問題が、
・ものづくりか/ソフトウエアか
・ものづくりか/情報・サービス産業か
という二者択一で議論されてしまっているからです。
いまや、ものづくりに限らず、あらゆる領域で、ハード技術とソフト技術は切り離せない関係になっており、両者を融合させたところからしか、新しいイノベーションは生まれません。
日本はこれからものづくりとどう付き合うべきか、という問いに答えるとすれば、ものづくり技術の高度化は、日本の産業の基盤として捨てるわけにはいきません。
私たちの何年か先を走っているといわれているアメリカは、しばらく前にものづくりを放棄して、金融工学に走り、またソフトウエア、知的財産の高度化と活用を目指して世界をリードしようとしています。
日本が同じ路線を目指し、アメリカと競争して勝っていけるかといえば、はなはだ心もとないところがあります。アメリカと違って、日本には、日本にあった独自性、創造力を発揮する方向があるのではないかと思います。
前章でお話したように、研究開発力と緻密な生産技術力の両方を高いレベルでもつ日本のような国は世界にはほかにありません。どんな時代になっても、高度なものづくりの技術力は、競争力の源泉でもあります。これを捨てる必要があるとは思えません。
もちろん、ソフト・サービス分野の活性化が不要というわけではありません。たとえどの領域に力を注ぐとしても、最先端のものづくり技術の向上は不可欠なのです。最近は、Iot(Internet of things)、ドイツ発のindustrie4.0が話題になっています。緻密な加工とアッセンブリー技術、さらにソフトウエア+通信技術の組み合わせは、まさに日本がもっとも得意とするところではないかと思います。
研究開発の重要性は非常に分かりやすく、かっこいい話でもありますので皆さんおっしゃいますが、それに比べて派手さのないものづくり=生産技術の重要性はあまり理解されていません。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸