「日本のものづくりは、世界の財産である」(87)|第八章 ものづくりの将来性と潜在力 〜ものづくりのゆくえ〜
ここまで、私たちがものづくりや仕事とどのように付き合ってきたのかを、ざっと振り返ってきました。
ご紹介してきたように、日本人は「ものをつくる」ということに対して、強いこだわりを持っている、世界でも数少ない国民です。
江戸の末に国を開き、西洋文明を導入して百数十年。わたしたちは西欧の近代科学を学び、ものづくりに励んできました。そしていまもなお、ものづくりに思いを託して、経済を発展させようとしています。「ものをつくるというプロセス」に、これほどのこだわりを持っている国民は、世界を見渡してもほかにあまりありません。
「032.通奏低音を聴きとったペリー」で、日本のものづくりの底には、特有の通奏低音が静かに流れていて、この通奏低音こそが、日本の伝統と文化から生まれたものづくりの特徴だと述べました。
日本が持つ緻密で高品質な製品づくりの仕組みは、日本の伝統文化に西洋の科学技術や合理性が融合して生まれた、世界でもきわめてユニークな文化であり、日本でしか実現できない日本の財産です。そしてそれは同時に、世界の、人類の財産でもあります。
もし、これが人類の財産であるとするならば、この財産をさらに高度なレベルへとブラッシュアップしてゆく仕事は、私たちに課せられた責務と言えるでしょう。
高度成長、バブル崩壊、失われた二〇年を経て、いま日本は、アメリカ、中国に次いで、GDPで世界第三位の位置にあります。人によって、この位置にあることをどう考えるかさまざまな意見がありますが、私は、国土面積が25倍もあり、人口も圧倒的に多い2つの国と張り合って、小さな日本もなかなか頑張っているではないかと、この国を頼もしく思います。
しかし、2位から3位へと順位を落としたことで、日本は優位性を失い、ものづくりでは世界で戦えないと主張する意見もあります。
日本の将来を考えたとき、ものづくりはいったいどのような役割を果たすのでしょうか。この点に関して、大きく2つの意見があるようです。
・高度なものづくりこそ日本の産業を支える生命線であり、これからもものづくりにこだわって高度化を進めていくべきだとする意見と、
・いつまでもハードウエアの加工技術にしがみつかず、ソフト・コンテンツなどの情報通信産業や金融・流通・サービス産業の方向に進むべきだとする意見です。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸