「日本のものづくりは、世界の財産である」(74)|第六章 勤勉革命と能力主義の萌芽 〜高度なものづくりを生む環境〜
報酬を当てにせずに仕事を行う、これを経済学的に未熟というべきか、成熟というべきか、その判断には、いろいろな意見があるでしょう。
かつて、国民に「浪費をつつしんでつつましく暮らす」ことを奨励してきた政府は、いまでは、「どんどん消費して景気の向上に貢献しよう」と呼びかける時代です。「もったいない」ということばも海外から逆輸入される時代になりました。
最近は、グローバル化の怒涛のような流れを受けて、アメリカに倣って、日本の企業も取締役に巨額の報酬を支払うようになりつつあります。世界の流れには逆らえないということでしょうが、果たして、報酬、経済的な豊かさ、それも限度を超えたレベルでの巨額な報酬だけが、私たちのモチベーションの源泉なのでしょうか。
もしそうだとすれば、部門間を越えた連携でしか生まれない、評価のされにくい高度なものづくりの技は、生み出されにくくなるのではないかと危惧します。
かつて職人が持っていた、自分の技へのプライドと仕事を届けた客の喜びを対価と感じられるような文化を、グローバルに広めたいような気もしますが、速攻で、青臭い書生論と一蹴されてしまいそうです。
いずれにせよ、「日本人は勤勉」は後天的に身に着けた性癖であり、決してDNAなどという根深いものではないことがわかりました。
やがて何年かたった後には、日本人が勤勉さと活力を失っている横で、新興国に、当たり前のように勤勉に働く社員が増え、さらに、ものづくりや科学技術の中心が、新興国のひとつに移っているかもしれません。
少なくとも、そうした国が台頭し、しっかりとものづくりの高度な技を受け継ぎ、ブラッシュアップしてくれるまで、ものづくりの質を高める努力をする義務が、私たちにあるのではないかと思います。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸