ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
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「日本のものづくりは、世界の財産である」(68)|第六章 勤勉革命と能力主義の萌芽 〜能力主義の萌芽……下級武士の登用・足高制〜

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財政に関心を持たない勘定奉行の下で、財務処理を行うのは計算に長けた家格のずっと低い下級武士ですが、下級武士がいくら危機意識や緊縮財政の必要性を訴えても、勘定奉行をはじめとした高級武士が数字・計算が苦手で、主君や藩行政の浪費にブレーキをかけられないのでは、財政は悪化する一方です。

説得力を持たせるために、計算に長けた財政政策に強い有能な下級武士を責任者=勘定奉行として抜擢・登用するとなれば、その武士に基準石高まで加増して資格を与えなければなりません。かといって、その加増分を、もともとの家禄を持った家から減俸するわけにはいきませんから、登用すればするほど、藩が支払う総禄高は増えて、さらに財政を悪化させることになります。

膨れに膨らんだ元禄時代のバブル景気をへて、こんな状態が続けば幕府や各藩の財政破たんも時間の問題、という切羽詰まった状態の1716年、紀州尾張藩から抜擢されて登場したのが、第八代将軍吉宗です。

吉宗は、将軍に就任早々、新田開発の奨励や倹約令などを出して財政の再建をめざしますが、同時に一つの施策を採用します。それが身分制度の秩序に縛られ、固定化していた家制度の壁を打破する「足高制」(たしだかせい)と呼ばれる制度です。

下級武士を勘定奉行に登用すれば、基準石高まで加増して家禄を上げなければなりません。いったん加増すればそれは家禄として代々受け継がれますから、これでは財政負担になるので、おいそれと登用はできません。

そこで、役職についている間だけその役職の基準石高を付与する、つまり、ワンポイントでゲタをはかせる、という手を考えだします。試験の点数を足りない生徒に点数を気持ち加えて合格させることを、ゲタをはかせる、と言いますが、この言葉は、いまはもう、死語になっているかもしれません。背が足りないならば、ゲタをはかせて背伸びさせようというわけですね。

例えば、勘定奉行や江戸町奉行の基準石高は三〇〇〇石です。ここに抜擢したい者が、家禄五〇〇石の家のものであった場合には、その役職在任中に限って、その不足分二五〇〇石を「足高」として加算し、三〇〇〇石を支給するというものです。

究極まで困れば解決策はおのずと出てくるということでしょうが、これは、それまでの武士の身分を守ってきた家制度の崩壊を意味します。強い反対があったはずですが、それを実行してしまう所は、さすがに吉宗、強いリーダーシップがあったと言えるでしょう。

この仕組みは、能力のある下級武士を登用する一つの有力な方法になりましたが、予想以上に大きな効果を生みます。何よりも、家格のために出世は望めないと思われてきた下級武士に、大きなチャンスが生まれてきたわけです。

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。

梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。

写真撮影:谷口弘幸


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