「日本のものづくりは、世界の財産である」(51)|第四章 律令時代を支えた計数管理 〜水時計で不定時法を管理〜
朝廷の役所の門の開閉時間も記されていますが、その時刻が、不定時法に合わせて日数の経過とともに少しずつずらされて設定されているのです。この緻密さは、現代の私たちに通じるものです。
不定時法では、日の出が明け六つ、日の入りが暮れ六つとなりますから、定時法でみればこの日の出/日の入りの時間は、毎日変化することになります。
明石の標準時で日の出時間の変化を見ると、
・春分の日(6:03)
・夏至の日(4:46)、
・秋分の日(5:47)
・冬至の日(7:02)
という具合です。
日の出(明け六つ)、日没時間(暮れ六つ)は、年間で2時間以上、1日に約45秒変わります。1週間で5分前後、ひと月に20分前後変化します。
当時は、漏刻と呼ばれる水時計が使われていましたので、不定時法の環境で、毎日、日の出・日の入りに開門、閉門しようとすれば、漏刻の時間の進み方、つまり水の溜まり方を毎日変化させておかなければなりません。延喜式では1年間を21に分けて、昼夜ごとに、21通りの目盛を作成し、開門、閉門時間をずらしています。
古代から、時間管理は支配者の特権で、この時代も、時間は朝廷が太鼓を叩いて知らせていました。太鼓の叩き方も、定時の通報、開門・閉門、その他行事の開始・終了時間の知らせ……などなど、それぞれ規定されています。
こんな面倒な作業をよくやるものだ、とあきれますが、こうしたこだわりが現代の私たちにないかと言えば、「そういえば……」と思い当たるフシもないわけではありません。
それにしても、現代の会社もびっくりの、見事な出張旅費規程、物流規程、作業規定ではありませんか。
これらは、わたしたちがいま一般に、標準と呼んでいるものにほかなりません。
科学的管理法に先立って1000年以上も前に、先人がこんな細かい規定を作り、それで業務を処理していたことをみると、私たちの祖先が計数管理に弱く、どんぶり勘定で行っていたと、言ってしまっては、申しわけない気がしてきます。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸