梶文彦の「ものづくり 日本の心」(40)|第三章 豊かに広がるものづくりの世界 〜合理・論理/非合理・非論理を容認する文化〜
長い間、西洋文化の合理性や価値観を前提にして、暗黙知であるカンやコツは非合理的な要素として排除されてきました。しかし最近は、逆に、むしろカンは経験に裏打ちされた論理だとして、それを重視し、カン・コツの状態で伝承しようという動きが生まれています。やっと正しい方向に進んできたと思います。
合理性=論理を重視しながらも、非合理・非論理をも容認するおおらかさが日本の伝統的な文化だとすれば、カン・コツを数値化せずにそのまま認めるという認識への変化は、自然の流れと言っていいのではないかと思います。
神は唯一の絶対神とするキリスト教の西洋文明に対して、八百万の神が万物に宿り、最近ではトイレにさえ女神さまがいると考える日本人の精神は、合理/非合理の枠を超えた、ある意味で自由な発想を生みだす、東洋的な感性ではないかと思います。
そしてその自由さは、神道の八百万を信じる自由さよりも、むしろ無宗教から生まれる万物への等距離感から出ているのではないかと思います。感情にも、理性にも等距離、万物に等距離で接する、いわばこだわりのなさが、日本のものづくりで目からうろこの工夫が生まれる根底にあるような気がします。
世界にはさまざまな人たちがいます。論理は一つではありません。日本のものづくりはこうした融通無碍さを含んだものですが、世界に対してもっと分かりやすくして、理解してもらえるように努力することも重要ではないかと思います。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸