ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

梶文彦の「ものづくり 日本の心」(16)|第一章「勤勉」は近代産業とともにやってきた 〜工員の欠勤率二一パーセント〜

幕末から明治初期の日本人の働きぶりは、怠惰で仕事をしなかっただけでなく、勤務の形態そのものに慣れていなかったという面もあったようです。

慶応元年(1865年)に建設が始められた横須賀製鉄所は、小栗上野介の発案で、フランス人技術者レオンス・ヴェルニーの指導を得てつくられた官営の造船所で、フランスにならって、1日8時間労働、日曜日休業の週休制、病欠の場合100日は有給、天引き預金・・・などが取り入れられた画期的な工場であり、後に造船大国、ものづくり大国日本をつくる出発点になる工場です。

そこで、操業後数年たった明治5年、造船所職工規則が公布されています。就業規則はそれまでなかったのですが、稼働してみて必要だということになったのでしょう。

内容をみると、第二項に、「職工及人夫毎朝入場後直チニ工場ヲ脱出シ、午餐停業ノ頃混雑二紛レテ帰場スル者」を問題とし、これに対する措置を定めています。つまり、工場にいったん入ったあと、工場を脱出する職人職工が、少なからず存在していたのです(『横須賀海軍船廠史』横須賀海軍工廠編、原書房明治百年史叢書)。

「厳密ノ尋問ヲ経テ、午後三時間改札場ノ木杭二縛置シ、其側二犯罪者ノ姓名及附属工場ノ名ヲ記シテ之ラ懲罰スベキノミナラズ、脱出中ノ時間ニ応ジテ、一日若クハ数日間ノ給料ヲ減ズベシ」と懲罰を課したことで、違反者は減少したようですが、それでもこれが当時の勤務の実態でした。

江戸時代に培われた気ままな勤労ペースが、時間で管理された勤務実態に馴染めなかったということもありますが、男子は腕一本で生きるべし、雇われ仕事は女子供のやることという風潮がある中で、時間で雇われるというのは男子たる者の仕事ではないと、勤務という形態が軽視されていたということもあると思います。

それにしても、木杭に縛るとは、凄い刑罰ですね。たしかに犯罪と言えば犯罪ですが、まだそういう時代だったということでしょう。世の中は、旧時代のまま、ここだけがフランスの指導を受けて近代化された、状態だったことがこれで分かります。

一八五九年、六一年と来日し、六四年にはスイス領事として三度目の来日を果たしたリンダウは、著書の中で、「仕事に対する愛情は日本人にあっては、だれにでも見られる美徳ではない。かれらのうちの多くは、いまだ東洋に住んだことのないヨーロッパ人には考えもつかないほど不精者で」、「矯正不可能な怠惰」と書いています(『スイス領事の見た幕末日本』リンダウ、新人物往来社)。

多くの外国人が書いているように、過去にわたしたちが怠惰であったとすれば、いまの私たちの勤勉さは、いつ身につけたものなのでしょうか? 勤勉こそ古くから日本人に備わったDNAという、私たちの勤勉さに対する誇りは、もしかすると、私たちの勝手な思い込み、世界に広げた風評伝聞かもしれません。

実際はどんなだったのでしょうか。

たとえば明治時代の日本人労働者はこんな具合でした。

明治政府の農商務省の調査報告『明治政府の農商務省の調査報告』職工事情、明治三六年)によると、明治三〇~四〇年ころの職工の半数以上は、勤続三年未満の未熟練者で、年にほぼ半数が退職したといいます。

殖産興業・富国強兵を目指して国が鳴り物入りでスタートさせた日本産業のけん引役である三菱長崎造船所でも「月当り離職率は六パーセント(一八九八年)、欠勤率は二一パーセント(一九〇八年)」という状況でした。

欠勤率は冬の十一月~一月は低いが、暑い七、八月に高くなり、月のうちでも、賃金支払日の五日は出勤しますが、六~九日はふところが暖かくなったことから遊興のために欠勤し、賃金をほとんど使い果たした九日以後に、ふたたび真面目に働いて、賃金計算のための帳締め日である二〇日は出勤率が最も高いという「気まぐれな出勤態度」(「日本人の経済観念」武田晴人、岩波現代文庫)であったそうです。

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。

梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。

写真撮影:谷口弘幸


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