梶文彦の「ものづくり 日本の心」(14)|第一章「勤勉」は近代産業とともにやってきた 〜海外に出て初めて知る日本人の勤勉さ〜
このあたりで、受講生の頭から「?」マークが吹き出しで見えるようです。多分、日系工場の現地作業者以外に思いつかないでしょう。
もう一つ、こういうのはいかがでしょうか?
「給料日は各人ごとに別の日にしなければならない。というのは、彼らは給料を受け取るとしばしばまる二、三日は姿を見せず・・・有り金を全部使い果たすまで戻ってこない」。
これもまた、特にメキシコなど中南米や南米に進出している工場の幹部から、よく聞かされた意見です。最近は改善されてきたとはいえ、しばらく前までは、給料日の翌日は欠勤率が二ケタ台になるので、それを見込んで配置計画を作っておかなければならない、というのが駐在員の集まりで定番のボヤキになっていました。
海外に出て初めて日本の作業者の質の高さに驚いた、と感想を述べる人もいました。日本人には当たり前の勤勉さが、決して世界標準ではないことを実感として知ったという驚きがそこにありました。日系の工場だけでなく、韓国系の工場などでも同様の状態であったようです。
しかし、紹介したものが海外工場に勤務する日本人駐在員のことばか、と問われれば、やはり「ブー」なのです。
受講生たちが首をかしげていると、ここでふと気づいて「日本!」という、確信に満ちた声を発する受講者が出てきます。手を挙げません。顔をみると、見るからに「分かった」というドヤ顔をしています。
「なぜ日本?」
「だって、絶対にアメリカじゃない問題の正解がアメリカなら、絶対に日本じゃない問題の正解は日本しかない」
「なるほど、では、そのこころは?」
「いまじゃなくて、むかしのことじゃないの?」
やられました。ピン、ポーン、正解です。
正解が一、二、三、ときて、つぎが四でなければ、二に戻る。知識がなくても正解が出せる、マークシート世代のビジネスマンです。
日本のビジネスマンもやるではありませんか。これだけの柔軟な思考ができれば、将来は楽しみです。
わたしの側から言えば、柳の下にドジョウはいても、二匹目も狙えばケガをするというよい例で、二問続けると、鉄板ネタも、穴だらけのざるになってしまうという教訓です。
たしかに、引用したことばは、日本人が発したものではなく、逆に、外国人が日本に来て、日本人の勤務ぶりに対して発したことばだからです。
しかも、歴史をさかのぼった昔の話、というのも正解です。

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
写真撮影:谷口弘幸