ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
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「日本のものづくりは、世界の財産である」(67)|第六章 勤勉革命と能力主義の萌芽 〜武士道は損得勘定を取らない〜

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里山の山林が新田に開発され尽くされてしまうと、やがて収穫量は頭打ちになり、税収も増えません。しかし、いったんバブル化した財政は縮小しません。各藩では参勤交代や江戸屋敷での生活を維持するための出費がしだいに負担になり、幕府からの普請要請なども増えて、財政を圧迫していきます。

藩財政を運営するために有能な会計・財政担当者、行政面での強力なコストカッターが求められるのですが、課題に応えられる勘定奉行は、家制度の上にあぐらをかいて、時間を無為に過ごしてきた高禄武士階級の中にはいません。

なによりも、新渡戸稲造が書いたように「武士道は損得勘定を取らない。むしろ足らざることを誇りにする」(『武士道』奈良本辰也訳、三笠書房)という精神が、勘定・計算という作業をいやしいものとして武士たちに忌避させてきたからです。

一般の庶民を対象にした手習い所、寺子屋では読み書きそろばんを教えましたが、武士の教育に当たって、「読み」「書き」は教えても「そろばん」を教えることはありませんでした。教養は、もっぱら四書(論語、大学、中庸、孟子)、五経(易経、書経、詩経、礼記、春秋)の素読と議論をたたかわすことで行われ、一貫して理財の道をいやしいものとしてきました。

その結果が、藩財政においても勘定意識の欠落につながります。本来、金庫番を担当する勘定奉行は重要な役職とされていましたから、家格の高い者が担当してきましたが、主君大事で言いなり、計算ができないうえに、細かなコスト意識は皆無ですから、緊縮財政など考えも及びもしません。

為政者として、自己を理財の道から遠ざけるという高潔さは、正しい政治を行うという面では重要な役割を果たしますが、それが藩の運営においても財務会計を緻密に行うことから眼を背けるようになれば、行く末は明らかです。

諸制度が整えられ、知行地内でさまざまな事業が行われれば、藩の財政を計算し、収入と支出をしっかりと把握し、管理することが必要になってくるというのは当たり前の道理です。行政を担っている武士が財政から目を背けて、ではいったい誰が藩の財政のかじ取りをするのか。当然の成り行きとして、この面で幕府も各藩も苦悩することになり、財政は時代が進むにつれて、次第に逼迫するようになってきます。

時代の流れはうまくいっているもので、財政がひっ迫するとともに、商人が力を持ち出します。藩の金庫に金がなくなれば、出入りの商人への支払いを猶予させ、さらに借金をすることができる、という逃げ道ができたために、ひっ迫していながらも、傷口が知らないうちに広がっていくという、マイナスのスパイラルに陥ります。

増えた借金は、代々の勘定奉行に申し送られ、殿様に知られることはありません。
当時、ほとんどの藩が、幕府の制度と同様の「家」制度を採用していました。

代表的なものが家格と役職の関係です。各役職に就く条件を禄高で基準石高として設定し、その禄高を保有する身分の家臣だけがその役職に就くことができるとしていたのです。有能であっても、出身の家にその格式がなければ、抜擢することはできません。

本来、金庫番を担当する勘定奉行は重要な役職とされていましたから、家格の高い家の者が担当してきました。家格が高いのは、何代か前の当主が戦で手柄を立てたため。代々の当主は、単に家格で勘定奉行を受け継いできただけで、数字がからきしダメなうえに、コスト意識がありません。

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
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