ものづくり 日本の心

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。
発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

「日本のものづくりは、世界の財産である」(61)|第五章 科学より技術に向かう職人たち 〜好奇心と技のスパイラルが生むからくり〜

図版原稿-5.014
それにしても、こうした緻密な工夫と技はどうやって生まれたのでしょうか?

ずいぶん前のことですが、名古屋・御器所の伝統的なからくり人形師八代目玉屋升兵衛さんのアトリエをお尋ねしたことがあります。

現在は代が変わって九代目が継がれていますが、八代目玉屋升兵衛さんは、寛政8年(1796年)に土佐藩の細川半蔵が書かれた『機巧図彙(からくりずい』(首巻・上巻・下巻)の中の、茶運び人形など、いくつかを復元しているほか、祇園祭りの山鉾で長い間動かずにあった「蟷螂山(とうろうやま)」のからくりを復活させています。

復元した茶運び人形の機構などを詳しく拝見させていただき、からくり人形に施されている工夫についてお話を伺いました。和時計はこのからくりの技術を活かして作られたといわれています。その意味では時計もからくりの一つです。

『機巧図彙』に収録されているのは、
・首巻=掛時計・櫓時計・枕時計・尺時計、
・上巻=茶運人形・五段返・連理返、
・下巻=竜門滝・鼓笛児童・揺盃・闘鶏・魚釣人形・品玉人形
などですが、木材と麻ヒモ、動力源のぜんまいにクジラのひげなどを使って動力を伝え、精度の高い動きを生み出す工夫は見事で、動作のスムーズさは、見る人を驚かせます。

茶運人形は、前に伸ばした腕をスイッチに使い、掌にお茶を置くと客に向かって動き出し、客の前で停止。客がお茶を手に取って飲み、茶碗を戻すとくるっとまわって元の位置に戻る……というものです。

この人形も見た人を驚かせますが、なによりも見た人を驚かせるのは、五段返(ごだんがえり)(図)です。

上から下へ独立して五段に配置されたステップを、人形がバク転しながら降りてくるもので、なんの支えもない人形がくるくると回りながら柱の上を伝って一人で降りてくる仕掛けに、見た人々は、どぎもを抜かれたのではないかと思います。ロボットを知っている現代人でさえ、そんなことを、マイコンを使わずに機構の仕掛けだけでさせようとはなかなか思いつきません。

細工の緻密さにも驚きますが、なによりも、錘に水銀を使い、ガラス管の中の水銀を体の傾斜で移動させ、体をバック転させる工夫は、斬新です。喜んで見る庶民がいて、からくりの工夫も生まれます。つくり方に強い関心を持つ好奇心旺盛な庶民が、こうしたからくりを目の当たりにして、仕掛けがどうなっているのか、興奮しながら口角泡を飛ばして推論し合う姿が目に浮かぶようです。庶民をあっと言わせ、催し物は人気を博しただろうことは、想像に難くありません。

※挿絵脚注
人形がバク天をしながら、階段を次々に下りてゆく。中に仕掛けられた水銀の移動を利用している。

梶文彦 写真

梶文彦氏執筆による、コラム「ものづくり 日本の心」です。
梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています。
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